さぞ、お辛かったのでしょうね】. 京に着いたとき、父が「これを手本にしなさい」と言って、この姫君のご筆跡を下さったが、それには「さ夜ふけて寝覚めざりせば(夜が更けて目が覚めなかったならば)」などと書いてあり、「もしも火葬場のある鳥辺山の谷から煙が立ったならば、前々から弱々しく見えていた私だと知ってください」と、何とも言えずすばらしく、みごとな筆跡で書かれている歌を見ると、いっそう涙をそそられる。 田子の浦は波高くて、舟にてこぎ巡る。 夕暮れは火の燃え立つも見ゆ。
20大変にじれったい気持ちのまま、等身大に薬師仏の像をつくって、 手を洗い清めるなどして、人が見ていない間にこっそりと(仏間に)入って、 「早く上京させてくださって、物語がたくさんございますという、それらをありったけお見せになってください」と、 一心不乱に額(ひたい)を床につけてお祈り申し上げるうちに、 私が十三歳になる年、上京しようということで、九月三日に出発していまたちという所に移る。 横走の関のそばに岩壺という所がある。 係り結び。
20名残惜しい。 姉の四十九日の法要を済ませて後、親族の人の所から、「亡くなった人が、『必ず捜しておくってください』と言っていたので捜しましたが、その時には見つけ出すことができずじまいであったのに、亡くなった今になって人がおくってくれたのが残念で悲しいことです」といって、『かばねたづぬる宮』という物語を贈ってくれた。
4たいそうじれったくてたまらないので、等身の薬師仏を作って、手を洗い清めては、人が見ていない間にひそかに仏間に入って「早く京都に上京させてくださり、物語がたくさんあるのを、ある限り見せてください」と、身を捨てて額をすりつけてお祈りしているうちに、十三歳になった年に上京することになり、九月三日に門出していまたちという所に移った。
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