ダウンロード・印刷してご利用いただ 〔三〕 或殿上人さるべき所へ參りたりけるに、折しも雪降りて月朧なりけるに、中門のいたにさぶらひて、寢殿なる女房にあひしらひけるが、此朧月はいかゞし候ふべきと言ひたりければ、女房返事はなくて、取りあへず内より疊を推し出だしたりける心早さ、いみじかりけり。
10水鳥を 水の上とや よそに見む 我も浮きたる 世を過ぐしつつ や=反語・疑問の係助詞、結びは連体形となる。
(世間の人並みに)風流好みな様子で振る舞い、若々しくなさって、この無常な世をも過ごすだろうに、(このような)すばらしいことや、趣のあることを、見たり聞いたりするにつけても、ただもう(常々)心にかけてきた(出家遁世したいという)気持ちの引きつけるほうばかりが強くて、気が重く、思いどおりにならずに、嘆かわしいことが多くなっていくのが、とても苦しい。 あとは文脈判断であるが、直後にあるのが体言であればほぼ婉曲で間違いない。
20らる=自発の助動詞「らる」の終止形、接続は未然形。 動詞は、品詞名を省略した。 見ゆ=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の終止形、見える、分かる。